翻訳なんでも相談室 
メール配信サービスを開始 停止 e-mailアドレス

[記事表示に戻る] [ツリートップの表示に戻る]

◇┳翻訳会社との契約に際しての自己防衛策-投稿者:Noriko(12/7-02:54)No.1744
 ┣┳Re:翻訳会社との契約に際して 1/3-投稿者:Takacjo(12/7-18:39)No.1745
 ┃┗┳Re:翻訳会社との契約に際して 2/3-投稿者:Takacjo(12/7-18:46)No.1746
 ┃ ┗┳Re:翻訳会社との契約に際して 3/3-投稿者:Takacjo(12/7-18:49)No.1747
 ┃  ┗━Re:翻訳会社との契約に際して 3/3-投稿者:ボクチン(12/7-20:16)No.1748
 ┗━ありがとうございます-投稿者:Noriko(12/10-12:47)No.1751


トップに戻る
翻訳会社との契約に際しての自己防衛策Noriko 174412/7-02:54

翻訳の道に足を踏み入れて間もないNorikoと申します。翻訳会社への登録に
際し、業務委託についての合意書に署名・捺印を求められました。(形式上
は、会社が合意書を提案し、登録者が合意できる場合には署名して、原本を
会社が、コピーを登録者が保管するというかたちです。)すでに2社ほど登
録をしておりますが、このような合意書は初めてでした。自分でしっかりと
納得した上で署名をしたいのですが、自分に法律的な知識はなく、持ち帰っ
てきている状態です。

これまであまり考えたことがなかったのですが、これがきっかけとなり、翻
訳者として知っておくべき法律的な知識や対策について、気になりだしまし
た。そこで、経験者の方々に、こういった場合の自己防衛のためにどのよう
なことをされているのか、また、注意すべき点などアドバイスいただきた
く、投稿しました。

合意書の内容は、守秘義務についてや、納期厳守についてなどがふれられて
いますが、私の最も気になる点は免責についてで、これは特にふれられてい
ません。私の思いつく範囲で、例えば、
1.著作権上問題のある原文を翻訳してしまって、それが世に出た場合の責
任や、
2.翻訳したものに間違い、または誤解をまねくような内容があって、チェ
ッカーもクライアントも誰も気づかないまま世に出て、その間違いによりク
ライアントまたは第3者に損害を与えた場合の責任
3.翻訳には間違いや誤解をまねくような内容はなかったが、原文の内容そ
のものに、例えば、社会的問題があって、訴訟になった場合の責任

などについて、どういった防衛策を講じていらっしゃるのか教えていただけ
ないでしょうか。また、例えば、こういったことの法的な対策のために弁護
士さんと常に相談をするというような(ホームドクターならぬホーム弁護士
のように)ことをされている方はいらっしゃいますか? その場合の費用の
目安はどれくらいなのでしょうか? そのほか、合意書に加えておくべき文
例や、翻訳に関する法律についての本やサイトなどご存知ありませんか? 
また、上記の3点以外に留意すべき点などありますでしょうか?

もちろん、最善をつくして翻訳をすることは大前提だと思いますが、世の中
いろいろな人がいますし、常識を超えたことも想定して準備しておきたいと
思っています。

よろしくお願いいたします。

トップに戻る
Re:翻訳会社との契約に際して 1/3Takacjo 174512/7-18:39
 記事番号1744へのコメント

Norikoさん、こんにちは、Takacjoと申します。
私はサラリーマンで数十年間、翻訳業界の周辺をうろついている人間です。ずっと
企業法務をやってきて、ときどき翻訳をやり定年後は翻訳に従事したいと考えてい
ます。あなたの提起された問題は、今後、重要になるでしょうし、私個人にとって
も理論的にも非常に興味深い問題です。回答が長すぎて、送れないので三回に分け
て送ります。

私の記憶している事件で(文献を調べたわけではないのでうろ覚えですが)翻訳、
または翻訳者が関係するのは4件あります。1つは、ロシア語の学術書の翻訳がず
さんだというので出版社(丸善だったと思います)が本の購買者から訴えられた事
件で、裁判所は出版社の責任を認めませんでした。大分昔で判決理由などは覚えて
いませんが、質の悪い翻訳本を買うのも買い手のリスクだということでしょうか。
もちろん、結果的に翻訳者の責任も問われませんでしたが、翻訳者にとっては気に
なる事件でした。

もう一つは、コンピュータ関係の翻訳を請け負った翻訳者が、その資料を第三者
(ロシア??)に漏洩したとして逮捕された件です。これは、言語道断、守秘義務
契約を結んでいようがいまいが、翻訳者としてあるまじき行為で刑罰を受けても止
むをえないですよね。

3番目は、特許に係る誤訳で、(これは手元に参考書がありました)硼素(boron)
を臭素(bromine)と誤訳し、補正したが特許庁で認められず東京高裁でも負けた
事件です(S58年)。翻訳した人や弁理士の責任はどうなったか、そこまではわかり
ません。


トップに戻る
Re:翻訳会社との契約に際して 2/3Takacjo 174612/7-18:46
 記事番号1745へのコメント

さて、翻訳会社と翻訳者の関係を契約書で明確にするのは、今まであまり行なわれていな
いようですが、これからそういう傾向が強まると思います。その場合、会社側は弁護士等
専門家に契約書を作らせ、会社側に一方的に有利なものが多くなると予想されます。誤訳
から生じたあらゆる損害(クライアントや翻訳会社、その他第三者に対する)は翻訳者が
負担するなどという条項が押しつけられないとも限りません。翻訳者は個人で弱い立場で
す。契約を呑まなければ仕事をもらえないし、せめて損害賠償責任保険でも入っておきま
すか。でも、そんな保険、アメリカはともかく、日本の保険会社は引き受けるか?


1.著作権の問題は、翻訳を依頼する者が翻訳権の許諾を受ける義務があるはずです。翻
訳者は翻訳契約で定めていない限り、原作の著作権者は誰か、の調査や権利取得の交渉ま
でやる義務はありません。問題が起これば、それは、その翻訳を世に出した者の責任で
す。

2.誤訳が原因でクライアントまたは第三者に損害を与えた場合、民法上は、誤訳と損害
の間に因果関係がある限り、翻訳者にも責任があると思います。しかし、翻訳会社は翻訳
者誤訳のすべての責任を負わせることはできないと思います。会社にも管理責任があり、
能力のない翻訳者を起用した、あるいはチェックを怠ったという責任は逃れられないでし
ょう。大企業の下請に対する業務委託契約などをみると顧客に生じた損害の責任を100%下
請に負わせるようなものが見うけられますが、こういう優越的地位の乱用は、公正取引委
員会が目をひからせていますので、翻訳契約であってもあまりひどいものがあれば、公取
に知らせるのも一法です。


トップに戻る
Re:翻訳会社との契約に際して 3/3Takacjo 174712/7-18:49
 記事番号1746へのコメント

免責についてですが、免責というのは、おそらく誤訳の結果として生じた損害賠償責任を免除す
る、つまり翻訳者の責任を追及しないということだと思います。しかし、翻訳会社としては、賠償
責任能力のない個人を実際に追及してもしょうがないと思っても、契約書上、免責するとまでは書
けないでしょう。ですから、これはこれでよいと思います。

3.原文の内容に、社会的問題があって訴訟になった場合、といえばD.Hローレンス「チャタレ‐
夫人の恋人」の翻訳書が猥褻物頒布の罪に問われ、出版社と訳者の伊藤整氏が有罪になった件があ
ります(4番め)。この事件は芸術のわからない検察庁や裁判所の石頭達の側に問題があったと考
えますが、現在でも、刑法175条の猥褻物頒布罪は生きていますし、名誉毀損罪もあるので、社会
的妥当性を超えるようなものの訳出、例えば今でいうなら殺人マニュアルや、反社会的行為の煽
動、ノウハウの開示に当るもの、個人の誹謗文書の訳出には覚悟が必要でしょう。もちろん、言論
の自由を振りかざし戦うのも意義はあるでしょうが。

個人で(事件が起こる前から)弁護士に相談している人はまずいないと思いますが、弁護士会など
で無料法律相談申し込むのも一案です。
大分、長々書きましたが、重要な問題提起で、私にもいろいろ考えるきっかけを与えていただき感
謝しています。


トップに戻る
Re:翻訳会社との契約に際して 3/3ボクチン 174812/7-20:16
 記事番号1747へのコメント

TakacjoのNo.1747「Re:翻訳会社との契約に際して」について ボクチンより

なんとも興味深く、また恐ろしくもある話ですねえ。私も身に覚えがあるんですが、損害について翻訳者に
とって不利な条件の書かれた契約を交わされたことがありました。もうその会社とはお付き合いしていませ
んが、そのときの私の無頓着さに反省しています。そのときに書かれていたことは、損害の原因が翻訳者に
帰する場合は翻訳者が翻訳会社に対して弁償する、というものと、翻訳者が翻訳会社に対して提供したアイ
デア、ノウハウ等の権利は全て翻訳会社に帰属して、翻訳者は一切の権利を主張できない、というものでし
た。ウエブサイトの改善や、キャッチコピーの作成、その翻訳会社がお客さんに提出するサンプルの翻訳ま
で、さんざん使われましたが当然何も支払われませんでした。思えば本当に馬鹿みたいで、何から何まで翻
訳者に依存している会社に出会ってしまって災難でした。そればかりか、そんな会社に付き合ってしまった
私自身にも腹が立ちます。皆様が同じ目に遭われないことを望みます。


トップに戻る
ありがとうございますNoriko 175112/10-12:47
 記事番号1744へのコメント

Takacjoさん、ボクチンさん、

アドバイスありがとうございます。判例やご経験を含めた詳しい
ご説明、感謝いたします。

何をやるにもリスクは伴いますが、そのリスクの範囲を知ってい
てやるのと知らないでやるのでは大きな違いがあると思っていま
した。この点、特に判例を教えていただいたことで、具体的に把
握できました。また、公正取引委員会のことや弁護士会の無料相
談のこと、また、権利の帰属先ということはまったく思い当たり
ませんでしたし、チャタレー夫人の件で訳者が有罪になっていた
というのも驚きでした。

あらためて合意書の内容を確認してみたところ、訳者が翻訳会社
に対して弁償するというのはありませんでしたが、提供したもの
すべてに対しての権利は翻訳会社に帰属するといったようなもの
が含まれていることに気づきました。

今回の合意書については、一案としてアドバイスいただいたよう
に、一度まず弁護士会の法律相談で相談してみようと思います。

本当にありがとうございました。