翻訳なんでも相談室 キャッシュバックトライアル実施中
メール配信サービスを開始 停止 e-mailアドレス

[記事表示に戻る] [ツリートップの表示に戻る]

◇━焦点Fを探せ-投稿者:びんごばんご(3/20-17:16)No.3303


トップに戻る
焦点Fを探せびんごばんご URL33033/20-17:16

 この書き込みは、先日『通訳・翻訳ジャーナル』誌の方々とお話する機
会があり、その際に、テクニカルチェックの存在を前提とした場合におけ
る翻訳者が専門知識を持つことの必要性・意義を問われまして、おそらく
このような話を引き出そうとする質問だったのではないだろうか、と後に
なって気付いたことが一つの契機になっています。

 英文の前提と焦点を判断するにはどうすればいいのでしょうか? という
質問なのですが、趣旨がわかりにくいと思いますので、上に挙げた前置き
を念頭におきつつ、以下に挙げる米原万里著『不実な美女か貞淑な醜女
か』からの引用と拙文に目を通した上で、ご自身の対処法や助言などをご
紹介していただければ幸いです。


 肝に銘じておくべきことは、話し手の言語を理解できない大多数の聞き
手が、多くの場合、無意識的に通訳者の、訳の正確さの判断基準にしてい
るのが訳の論理性だということである。
 だから、一見したところ筋道も脈絡もない話し手の発言の中から、通訳
者は耳を澄まして、論理の糸口を探り当てようと必死になる。時折、日露
両語に堪能な聞き手から、
「いやあ、あのスピーカー、何が言いたいのか、サッパリ分かんなかった
けれど、あんたの訳を聞いて、やっとスッキリしたよ」
 などと声をかけていただくが、通訳者にとってはそれは最高の誉め言葉
である。
(米原万里著『不実な美女か貞淑な醜女か』, 徳間書店)


 翻訳の場合、原文では論理の流れが明解でも、ダラダラしたつかみどこ
ろのない訳文になってしまいがちだ。というか、きちんと意識していない
と、十中八九そうなる。その結果、原文がいくら明解に書かれていても、
訳文は不明瞭なわかりにくい文章になってしまう。原文にある明解さを訳
文に反映するためには、論理の流れが明確に表現されるように工夫する必
要がある。

 そのための具体的なテクニックを紹介している本が次の2冊だ。

□ 安西徹雄著『翻訳英文法』(バベル・プレス, 1982年)
□ 薬袋善郎著『英語リーディングの真実』(研究社出版, 1997年)

 『翻訳英文法』は、単に英日翻訳の定石集と思われているかもしれない
し、びんごばんごも元々そういうつもりで読んだのだけれど、原文の思考
の流れにしたがって頭から訳していくための具体的な訳出方法は、そのま
ま米原万里のいう「訳の論理性」を表現するテクニックとなる。また、英
語と日本語との根本的な発想の違いに基づいた翻訳法という点では、日本
語の作文技術を学ぶ上でも有用だ。

 『英語リーディングの真実』の目次を眺めると、前提と焦点、有意志・
無意志、中間命題といったわけのわからんちんな言葉が並んでいて、ちょ
っと引いてしまうし、実際、こうしたテクニックを理解し翻訳に活用する
のは難しい。けれども、それを活用できたときの効果はでっかくでかい。
びんごばんごの場合、4回転やって、ようやく、ちょっぴりとおぼろげに
そこはかとなく、理解しはじめてきたのだけれど、骨を折るだけの価値は
ある。

 さて、ここから本題に入るのだけれど、まずは前提と焦点について簡単
に説明しよう(といっても、もちろん『英語リーディングの真実』の受け
売りです)。

 Play tennis after school. という文を単純に訳すと、「放課後にテニ
スをしなさい」というように動詞である Play に言いたいことの焦点があ
るかのような訳文になる。けれども、英文の焦点は述語動詞にあるとは限
らなくて、文脈によっては、Play tennis が前提で、after school に焦
点があり、「テニスをするのは放課後にしなさい」と訳す必要がある。

 このテクニックを実践で活用する難しさは、どこに焦点があるのかいつ
でも明白にわかるとは限らないという点にある。ここでは具体例を示さな
いが(というか差障りのなさそうな例を見つけられなかった。スミマセ
ン)、『英語リーディングの真実』の Part 2 の 10 にも微妙な例が紹介
されている(解説は pp.193-195)。この例でも、言われてみると、文脈か
ら判断できるような気もするが、予備知識がないとなかなかわからないよ
うにも思えてどうにも判然としない。ううん、ムツカシイ。


 皆さんはこのような問題にどうやって対処しているでしょうか?