私も山岡さんの『翻訳通信』を毎月楽しみにしている読者の一人です。
『翻訳通信』は漏らさずに保存していますが、2002年の8月が『翻訳通
信』の第1号であり、爾来6年近くも毎月欠かさずに続けておられるわ
けであり、本当に山岡さんの翻訳に対する姿勢には頭が下がります。特
に印象的だったのは一年ほど前に山岡さんが翻訳された『国富論』の出
版に至る経緯の話(『翻訳通信』200703.pdf参照)であり、その後に山
岡さんが訳された『国富論』を入手、拙宅にあった世界名著シリーズの
『国富論』(中央公論社)と較べて、格段に優れた翻訳であると思った
ことでした。そのため、拙宅の書庫が狭かったこともあり、山岡さんの
『国富論』を入手してからは世界名著シリーズの『国富論』は捨てまし
た。また、同じ筆者の『翻訳とは何か−職業としての翻訳』(山岡洋一
著 日外アソシエーツ)も、翻訳者を目指す人たちには必読の書である
と思います。
さて、たけださんがお問い合わせの翻訳学校ですが…
> 「優秀な」をすっとばして、修了者には云々の所だけ記憶してしまう
> 翻訳家志望者が多いのでしょうか?
古い話で恐縮ですが、私は一部上場の電子部品メーカーを退職後、1999
年4月から2000年3月にかけて東京の某翻訳スクールに通ったことがあ
ります。小生の通っていた翻訳学校も親会社が翻訳会社であったことか
ら、入学当初から「修了者には仕事を斡旋します」と教師がよく話して
いたものです。当時は7名程度の小人数のクラスでしたが、単に学校に
通い続けていれば黙っていても仕事を回してもらえるなどとは、一番若
かった二十代前半の女性も含め、誰も思っていなかったと思います。や
がて一年コースも間もなく終了しようとする頃、私は“脈がある”と思わ
れたのか親会社である翻訳会社の人事部に呼ばれ面接を受けました。話
はトントンと進み、終わり頃になって給与の話になりました。私は一年
前に退職した給料ほどはもらえないはずだから、スタートは一年前の年
収の三分の二程度で良いかと思い、三分の二の額にした給与額を述べた
ところ、その人事部長は呆れたような顔をして、「それは高する。せい
ぜい月15万円が相場です」と言ってきたものです。無論、そんな額で
は家族を養っていけるわけがなく、その翻訳スクールの修了を待たずに
積極的に各翻訳会社のトライアルを受け、その他に様々な翻訳者や翻訳
志望者の集いに顔を出して情報収集に努める傍ら、積極的に翻訳業界で
の人脈を築いたものです。こうした行動が翻訳者の卵であった当時の自
分には良かったようです。現在私は海外の経済誌などの記事の翻訳を時
々担当していますが、それも翻訳者の卵として駆け出しの頃、積極的に
顔を出していた某翻訳関連の勉強会で知り合った仲間からの紹介でし
た。また、一年間だけでしたがJTF(日本翻訳連盟)の会員にもな
り、大勢の翻訳者の仲間と知己になっただけではなく、その時に知り
合った某準大手の翻訳会社の社長さんとは今でも懇意にしていただいて
おり、5月連休後に久しぶりに昼食を共にする予定です。そして、
JTFでは私の通っていた翻訳学校の親会社の社長とも幾度かお会いし
ました。
ともあれ、翻訳スクールに通ったからといって、必ずしも翻訳者になれ
るという保証は全くなく、あくまでも本人の努力や人脈などを含めた運
次第であると思います。
サムライ拝
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